
まだ鉄のカーテンが東西のヨーロッパを隔てていた頃、その向こう側で、人々はどんな生活をしているのかに興味があり、東ドイツの市民運動について大学院で学び始めました。その矢先の1989年秋、東欧諸国では民主化運動が急激に活発化し、瞬く間にベルリンの壁も崩れさりました。このときの民主化運動を支えていたのは、30年以上も前から地道な活動を続けていた人々であり、その活動の発端を築いたのが兵役拒否者らであったことを知りました。以来、絶大な権力をもつ国家に、たった一人で対峙する人々に惹きつけられるようになりました。
私が会った兵役拒否者は、それぞれに個性的です。彼らは、しかし、卓越した知識や教養、あるいは強靭な意思力持ち合わせているわけではありません。みな「普通の人」たちです。 「われわれ戦争反対者は、勇気ある行いをなしたと称えられることがある。確かに、仲間から離れるのには勇気が必要だ。しかし、私はいつも皮肉に感じていた。この人たちにとっては、戦争に赴いて撃ち、人を殺し、自分も死ぬことの方が、面倒に巻き込まれることより容易いのだ。」 ベトナム戦争時にカナダに逃れた脱走米兵ジェリー・コンドンの言葉です。日本では、「国に逆らわず」「周りの人に合わせる」ことが尊ばれる傾向が強いですが、そのようにして「仕方なく」戦争に参加し、殺し・殺される結果を引き受けなければならないのは、私たち一人ひとりです。「自分だけ反対しても仕方ない」とあきらめている人たちに、日本ではなじみの薄い兵役拒否という考え方―おかしいと思ったことには、唯諾々と従わない-を、知ってもらいたいという気持ちで筆を進めました。

市川ひろみ【著】
明石書店 2007/12/20出版
ISBN:9784750326948
序章 命令に従わない兵士―対テロ戦争における兵役拒否
第1章 戦場の被害者―傷つく兵士
第2章 イラク戦争と兵士の家族―「準当事者」として
第3章 兵役拒否概念の歴史および類型
第4章 兵役拒否の社会的展開―東西・統一ドイツにおける兵役拒否
第5章 イスラエルにおける兵役拒否
第6章 日本における兵役拒否―その歴史と現代における意義
【著者紹介】
今治明徳短期大学准教授。1991年から93年にベルリン・フンボルト大学に留学。専門は、国際関係論・平和学。共著書に、初瀬龍平、定形衛、月村太郎編『国際関係論パラダイム』有信堂高文社2000年、小柏葉子、松尾嗣雄編『アクター発の平和学』法律文化社2004年、初瀬龍平、野田岳人編『日本で学ぶ国際関係論』法律文化社2007年他。
担当科目:「国際関係論」「日本国憲法」「ドイ
ツ語」他